【体験記⑨】転職サイトに載ってない職業体験(アニメ業界編Ⅱ)

taiken

『SIROBAKO』で驚く

 ちょっと脱線します。

 私は『SIROBAKO』(水島努監督)のファンで、劇中アニメ制作場面を見ていると、現在と昔の違いがよくわかり勉強になります。現代の仕上げや撮影方法がまったく変わっているので、驚いていました。

 とくに19話では、昔の制作シーンが流れて、そうだったと思い出しながら楽しんでいました。

 その中で、仕上げ作業の女性に、多分制作進行の男性が、セル画を見せながら「裏打ちしてほしい」ようなセリフを言って、女性から自分でやれと断られるカットがあります。

 このカットと同じことを、私は何度かしています。お願いする側と、断る側でです。

 「裏打ち(字はこれで良かったかな)」は、透過光撮影するときに必要です。

 そもそも透過光とは、セル画の裏側から光を当てて、カットの背後から光が出ている効果(逆光)狙った撮影方法です。今はあまりされてないようで、その理由は光が強く激しく点滅すると、視聴者に悪影響を与えるからです。

 「ポケモン事件」がそうでした。

 実は撮影サイドも、暗い室内で長時間強い光を見るので、時々頭がクラクラしていました。

 裏打ちとは、透過光撮影でセル画の裏側から光を当てると、光でセルが透けてしまい、絵も光って色がとんでしまうため、裏側の色を塗った部分にさらに黒色を重ね塗りする方法です。そうすれば、厚く塗られた分、絵が透けなくなるのです。

 通常は、制作進行がカット袋に裏打ち指定をして、仕上げがあらかじめ重ね塗りしておくのですが、きっとこの進行は忘れていたのでしょう。

 ただ、制作進行ならちょっとした仕上げや背景の修正、動画原画の簡単な書き直しなどはできると思います。オールマイティーが制作進行だと、専門学校では教えられ、ひと通りの作業はこなしてきました。

 また、背景画も昔のままで懐かしかったです。
昔の背景は画用紙に、直接絵の具を使って描いてました。鉛筆で下書きはしません。家や車、戦艦の中など、多くの背景画がありますが、それらは下書きなしで描かれていました。
直線を引く時は、物差しの溝を利用し、グラスペンと筆の両方を持って行います。特殊なやり方なので、コツと思い切りが必要です。

 私は専門学校の授業で、何枚か背景を書きましたが、最初に白紙の画用紙に絵の具のついた筆を下ろす緊張感は、今でも忘れません。

 新旧アニメファンが楽しめる『SIROBAKO』。見てない人は、一度見てみてください。

手塚治虫の撮影秘話

 もう一つ、ちょっとしたウンチクを。

 これは私が現場の先輩に聞いたことですが、アニメは絵が1秒間24枚(コマ)画面に表示され、それがパラパラ漫画のように動きを表現できます。

 最初にアニメを24コマにしたのは、ディズニーアニメ。
これは多分、映画のフィルム速度が1秒24コマで、アニメもそれに合わせたものと思います。

 そしてディズニーに触発され、アニメ映画を作ることにした、漫画の神様・手塚治虫でしたが、ディズニーのように24コマを1枚ずつ動きを撮るのは、絵を描くのも撮影も、費用と時間がかかる。そこで、「鉄腕アトム」以降の日本のアニメの主流は、3コマずつ同じ絵を撮影し、1秒間24動作ではなく1秒間8動作になったということです。

 昔のディズニー映画の動きと、日本のアニメの動きに違いがあるのは、こうしたことが原因です。

 では、最初から3コマずつ取るのではなく、8コマだけ撮影すればと思いますが、撮影カメラはアメリカの輸入がメインで、1秒間に24コマ流れるタイミングの撮影しかできなかったんです。

 今のアニメ撮影にはカメラを使ってないみたいですが(『SIROBAKO』より)。

短いカメラマン時代

 アニメの撮影に使う機材は、通常の映画を撮るかのような大きなムービーカメラを、上から吊るすようにし、真下のテーブルを撮れるように、レンズを下向きにセッティングします。そして、テーブルの上にセル画と背景を重ね、3枚ずつ同じ写真を撮っていくわけです。

 私も最初は、ムービーカメラを手に持って、セル画を撮っていくのだと思っていましたから、大掛かりな機械装置だったので、驚きました。と同時に、ワクワク感もありました。

 また当時は、テレビアニメ用は16ミリフイルム、映画用は35ミリフィルムと使い分けていました。費用が全然違うのと、扱いも太い分35の方がかさばって難しかったです。

 さらに、カメラからフィルムを抜くときは暗室での作業になりますが、真っ暗の中でかさばるフィルムを抜いて「ラボ缶」に収め、新しいフィルムをカメラセッティングするのは大変でした。
下手をしてフィルムを感光させてしまえば、その日の仕事はまったくの無駄になるわけですから、緊張もあって、春でも汗をかくことしばしばです。でも、撮影の仕事は楽しかったですよ。もしこのまま何もなければ、ずっと撮影をしていたかもしれません。

私の仕上げ時代

 入社した当初、私は撮影助手として、先輩方のアシスタントをこなしていました。

 撮影シーンに合わせて、口や体の動きのセル画を数枚ずつ組み合わせ、撮影者に渡して撮影していきます。ときには撮影台の大小のハンドルを操作し、TB(トラックバック/ズームアウトのような効果)、TU(トラックアップ/ズームアップのような効果)、FA(フォロー/被写体を固定位置で動かしたまま、背景だけが動く撮影法。キャラの徒歩シーンなどで使用)を行ってきました。

 基本、撮影用照明以外は暗く、窓は黒いカーテンで締め切られていたので、外の様子はまったく分かりません。その分、仕事に集中できたと思います。

 それと、やっぱり映画撮影用の大きなカメラで撮影しているので、映像撮影している実感が、アニメであっても感じられて楽しかったんです。

 そんな状況が変わったのは、私が撮影助手から撮影手に格上げになった頃。入社して6ヶ月ぐらいのことです。
朝出社してすぐに、社長に呼ばれました。

 「キミ、今日から仕上げね」

 突然の配置転換で、何があったのか分かりません。ですが、社長から言われたのですから、社会人6ヶ月目の私に反論なんかありません。
わかりましたと、すぐに仕上げの作業場へ行きました。

 撮影の先輩たちもザワザワしていましたが、私は何かミスったかなと、ずっと考えながら、仕上げの先輩に色の塗り方からコツまで教わったのです。

 しばらく月日が経ってから、私の移動理由がわかりました。

 撮影には私以外にもう1人同僚が新卒で入っていたのですが、もともと撮影の補充には1人の予定だったそうです。しかし、途中で辞めるだろうと踏んで、2人雇ったところ、いずれも辞めないようなので、1人を仕上げに回したというのです。

 その1人が私だった理由は、単にもう1人の同僚の視力が悪く、仕上げに向かないからということでした。
これは後に、社長から直に聞いたことです。

 私は初めから、撮影がしたくてこの会社に入ったわけではないので、仕上げの仕事に抵抗はありません。ただ、ようやく仕事に慣れて来てこれからという時、そして楽しさを感じられてきた時に、新しい仕事に回されるのが理解できなかった。とはいえ、新人の私に拒否権や反抗などできません。

 とりあえず、この日から私は仕上げマンになりました。

 仕上げはセルに色を塗るだけですが、結構大変です。
そもそも、キャラの肌の色、髪や口、服、手、足など、あらゆるところに指定された色を塗っていくんです。

 絵画のように絵の具同士を混ぜたりすることはありません。そんなことをすれば、スタッフごとに微妙に色の変化が起き、撮影して映像にすると、「色パカ」になってしまうからです。なので、塗料は指定された物以外使用できません。例えば同じ赤色でも、数十種の絵の具があり、キャラやシーンによって塗り分けていきます。

 また、顔のアップだけなら肌色や黒、赤など5色ぐらいで済みますが、体や衣装、さらに別のキャラまで入っていると、20から30色を塗り分けなければなりません。

 そして、セルの裏側から色を載せていくのですが、乾かないうちに塗って隣の色が滲むこともあります。なので、色を塗る時は細い筆で、なるべく塗料を薄く塗っていくんです。そうすれば早く乾くので。

 例えば、20枚ぐらいのキャラアップなら、まず肌だけを塗っていき、肌の最後が塗り終える頃には、最初に塗ったものが乾いているので、今度は目を塗っていく、という感じで作業を進めていました。

 やり始めると面白いものでしたが、撮影を下された悔しさが私にはあったので、仕上げの先輩に褒められても、あまり嬉しくなかったです。
この思いは、しばらくの間、私の中にわだかまりとして残りました。

【体験記⑧】転職サイトに載ってない職業体験(アニメ業界編Ⅰ

【体験記⑩】転職サイトに載ってない職業体験(アニメ業界編Ⅲ)

タイトルとURLをコピーしました